花水木の道を通る。
そして、花水木の出てくる美しい短歌を思い出す。
植物の名前は、物語経由で覚えたものばかり。
私と、植物の間には、物語が必要。
そうして、馴染みになる。
エピソード記憶。
午前中はとてもいい天気で、花水木もきれいだったのに、
夕方から雨が降り始め、
夜、冷たい雨の中を歩く。
蛙の鳴き声が聞こえてきて、
初夏がやってくる、と思う。
私の愛する初夏。
夏の匂いがしてくる季節。
雨で街が美しく濡れる。
ドイツとポーランドに行きたい。
私にとって大切なのは、そこにたどりつくまでの道。
今日の花水木の道。
鴨川沿いのクチナシの小道。
駅から家までの道。
毎日、学校で上り下りする階段。
階段を上る時には、少し前向きで、
下りる時には、大変に冷静になる。
教室に行くまでの道と、職員室に戻る道。
その道と、方向の持つエネルギーが、私の思考を決定づける。
いつか、私は、道の記憶を持って死ぬと思う。
iPhoneの写真アルバムにも、道の写真がいっぱいある。
思い出すのは、誰かの表情なんかじゃなく、美しいパノラマでもなく、立ち尽くすように、揺らめくように、かつてたどった道なのだと思う。