演劇を通した外国語活動への試み 〜表現の根っこを耕すための「学

すっかり、ブログにはご無沙汰になっています。

11月22日発行のメールマガジン「学びのしかけプロジェクト」に原稿を書かせていただきました。
インプロを取り入れた外国語活動について書きました。

このメールマガジンは、週に3回発行されます。内容が、とても豊富で勉強にになりますので、教育関係の方で、未購読の方は、是非登録してみてください。私も、毎回勉強させていただいております。

以下に、今回の文章を転載しておきます。

編集長の石川先生が、いつも素敵な編集後記を書いてくださっています。どの執筆者に対してもです。この編集後記の内容こそが、私の理想とするAuthentic assesment(真正な評価)です。こうした言葉が教師と子どもの間でやりとりされると、素敵だと思います。石川先生、ありがとうございます!!

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メールマガジン「学びのしかけプロジェクト」
169号 2011年11月22日発行
(毎週火金日発行)
http://www.jugyo.jp/
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★目次★
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1.演劇を通した外国語活動への試み 〜表現の根っこを耕すための「学
びのしかけ」〜
「ワークショップ」編集委員
京都府八幡市立美濃山小学校 教諭(休職中)
兵庫教育大学大学院 学校教育研究科修士課程
教育コミュニケーションコース在籍
藤原 由香里
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インプロやダンスを中心とする学びの場を精力的に創りだしている藤原
由香里さんの二回目のご論考です。読み応え十分の長文です。じっくりと
お読みください。                   (石川 晋)
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1.演劇を通した外国語活動への試み 〜表現の根っこを耕すための「学
びのしかけ」〜
「ワークショップ」編集委員
京都府八幡市立美濃山小学校 教諭(休職中)
兵庫教育大学大学院 学校教育研究科修士課程
教育コミュニケーションコース在籍
藤原 由香里
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今年度より、小学校5・6年生での外国語活動が必修化されました。外
国語活動の目標は次の通りです。

『外国語活動の目標』 小学校学習指導要領・外国語活動編

「外国語を通じて、言語や文化について体験的に理解を深め、積極的にコ
ミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、外国語の音声や基本
的な表現に慣れ親しませながら、コミュニケーション能力の素地を養う。」

今回は、前回に引き続き、インプロ(即興演劇)を通した外国語活動が
テーマです。
なぜ、英語教育に演劇やダンスを使うのか。私なりの問題意識をふまえ
て、実践を紹介したいと思います。

1.なぜ、外国語活動にインプロ(即興演劇)?

まず、私が小学校の外国語活動を実際に指導したり、参観したりする中
で感じた問題点を挙げてみたいと思います。

・児童が英語を「言わされる」と感じる活動になっていることがある。
・授業でゲームをすると盛り上がるが、英語を学んでいるといえるかどう
か疑問である。
・コミュニケーション活動と称した活動で・・・
- お互いに知っていることを聞き合う活動では、聞きたい、伝えたいと
いう意欲が湧かない姿が見られる。
- 英語でのやりとりをする意味を見出せず、しらけてしまう児童がいる。
- 勝ち負けや結果を目的としたゲームに陥りがちである。

こうした問題点をふまえて、考えたことは、次の点です。

・ただ、決まった言い方を教えるのではなく、児童が英語を言いたい、話
したいと思えるような状況を創ることが大切なのではないか。そのため
に、演劇やダンスという表現を取り入れることが有効なのではないか。
・勝ち負けで盛り上がるコミュニケーションゲームではなく、協力して何
かを創りあげるような活動を通して英語を学ぶことができないか。
・児童が英語でやりとりをする活動の意味やおもしろさを実感できるよう
な学習にできないか。
・英語に苦手意識を感じている児童も積極的に活動に参加できるような学
習にできないか。

5・6年生といえば、知的好奇心も旺盛で、言語を用いて深い思考をす
ることもできます。しかし、外国語活動の授業では、英語の文字を読んだ
り書いたり、文法を学んだりすることは内容とされていません。
読み書きはなくとも、知的好奇心をくすぐり、子どもたちが意欲的に取
り組めて、なおかつ、外国語の学習にもなる…そんな外国語活動にしたい
という思いに、ドラマ(演劇)や、インプロ(即興演劇)、ダンスを通し
た学習は応えてくれるのではないかと考えました。

ここで、「インプロ(即興演劇)」について、少し説明をしておきたい
と思います。

【インプロ】…英語のインプロヴィゼーション(improvisation;即興)とい
う言葉が略されてできた言葉。俳優たちが、脚本も、設定も、役も何も決
まっていない中で、その場で出てきたアイデアを受け入れ合い、ふくらま
せながら、物語をつくり、シーンをつくっていく演劇である。
『ドラマ教育入門』(図書文化社)より

今日、インプロは、俳優だけのものではなく、福祉、医療、教育、企業
研修など、様々な場で応用され、その魅力は日々多くの人に認知されるよ
うになってきています。

私自身、2006年に、大阪・高槻にあるカフェ・コモンズでのインプロワ
ークショップに参加し、ファシリテーターの鈴木聡之氏のインプロに出会
いました。そして、是非教育現場でインプロの考え方や方法論を活かした
いと思い、2007年より、鈴木氏と一緒に教育現場でのインプロの活用を模
索する「しなやかリレーションシップ」というワークショップを開催して
います。

鈴木氏(すぅさん)の活動については、
http://www3.plala.or.jp/impro-park/top.html
をご覧ください。

今回授業で使ったインプロのゲーム、『プレゼント』は、鈴木聡之氏の
インプロのワークショップにて学んだものを、今回の授業用にアレンジし
たものです。

では、どんなふうに授業を行ったか、紹介をしたいと思います。

2.実際の授業

授業は勤務校にて、この11月に実施したものです。指導にあたっては、
ティーム・ティーチングとし、私がT1で、T2は普段英語の授業を行ってい
るフィリピン人の英語講師にお願いしました。
私は、昨年度、6年生の英語3クラスを彼女と担当しており、お互いのや
り方をよく知っています。今回は、演劇を取り入れた授業を行いたいとい
うことで、了解を得て、彼女がいつも行っている授業にT1で入らせてもら
いました。普段は、担任教師と英語講師のティーム・ティーチングで授業
が行われているので、今回は担任の先生にはT3という形でサポートをして
いただきました。ウォーミングアップと、別の演劇のゲームを一つ行った
あとで、メインのゲーム「プレゼント」を実施しました。

対象:5年生
単元:いろいろな衣装を知ろう(英語ノート1)
授業の目標 コミュニケーションゲームを通じで、自分の好きな色や相手
の好きな色について英語でやりとりをしながら、色の言い方に親しむ。

インプロゲーム【プレゼント】

<場面>何でも売っているお店
A:店員 B:お客さん
A.What color do you like? (好きな色は何ですか)
B.I like (blue). (青色です)
A.This is a present for you. This is a (blue) (shirt).
(これは、あなたへのプレゼントです。青いシャツです。)
B.Thank you. It’s (nice) (ありがとう。いいですね。)

以上が、基本のスキットになります。

2人組になり、一方が相手の好きな色を尋ねる。そして、その色にあっ
たプレゼントを考えて、渡す、というゲームです。プレゼントは、実際に
あげることが可能なもの(例:shoes,T-shirt,pen,bookなど)でもよいし、
不可能なもの(例:thesun, monsterなど)でもよいです。
もちろん、好きな色は、自分で好みの色を伝えます。そして、何をプレ
ゼントとするのかは、自由です。相手が喜んでくれそうなものをあげよう、
という声かけをしますが、想像は子どもたちに委ねられます。

このゲームを考えついたきっかけは、先ほどの問題意識のところで書い
た「英語で表現する必然性」といったことが念頭にあったからです。
この単元のキーセンテンスは、What color do you like? / I like~.
/ I don’t like ~.
です。では、相手に好きな色を聞く必然性があるとすれば、どんな状況で
しょうか?私が思いついたのは、「相手に何かをあげる」という場面でし
た。

では、ここで、子どもたちがプレゼントしあったものを一部紹介しまし
ょう。

ライトブルーカーテン、レッドシューズ、レインボーマフラー、ブラッ
クペンギン、ブルードラゴン、ブルースカイ、ホワイトドッグ、ピンクた
らこ、イエローチーズ、レッドダイナマイト、ブラックTV,ブラックホ
ール、ゴールドゴッド…、ブルーTシャツ、オレンジティーチャー、ホワ
イトペーパー、ブラウンベアー…

驚くほど、色々な物が交換されていたようです。靴やTシャツのように、
単元の学習の中で出てくる語彙もあれば、犬やチーズのような身近な語彙、
そして、ブラックホールやゴールドゴッドのように、自由な発想が飛び出
していることも伺えます。

ちなみに、活動を終えた子どもたちからは、こんな声が聞かれました。

・ホワイトのヤギをもらってうれしかったです。
・お店を日本語でもやってみたいと思いました。
・紫色の猫をもらえてうれしかった。
・いつもよりたくさん英語を使って覚えられたのでよかった。
・もらった物がライトブルーのモンスターだったので、びっくりしました。

英語が話せて嬉しかったことはもちろん、相手からもらったものについ
ての感想が多かったことが印象的でした。「言葉」だけのやりとりではな
く、「アイデア」や「感情」がやりとりされているというのは、言い方の
習得以上の、本当のコミュニケーションに近いものになっているといえる
のではないかと思います。

3.この授業をふりかえって

小学校での外国語の授業で、最も大切にしたいこと…それは、伝えたい
という気持ちを育てることだと思います。伝えたいという気持ちは、言語
活動の根っこの部分でしょう。そして、伝えるために利用可能な資源とし
て「言葉」や「ジェスチャー」を駆使していく。無理やりに全部英語で表
現しようとするのではなく、伝えたい気持ちを伝える手段としての言語と
して、思いに言葉をのせていくことが、大切なのではないかと思います。
今回、感動したことは、子どもたちが、小さな演劇の中に、いくつもの
自然な表現を生み出していたことです。

ある男子2人のペアに、最後に発表をしてもらいました。

Aくんが、好きな色を尋ねると、Bくんは、redと答えました。それに
対し、Aくんは、お店の奥から何かをいそいそと取ってくるような素振り
をし、Aくんに、This
is a present for you. This is a red lighter. と言って、渡しました。
もらったBくんは、じっとそれを見つめると、「こわっ…」とつぶやきま
した。ライターをもらった驚きが伝わります。もちろん、全て架空です。
しかし、Bくんの、何ともリアルな反応に、まるで本当にライターが渡さ
れたかのように感じられるのでした。

「こわっ…」という自然な反応。これを、無理に
Thank you. It’s nice.
というように、おきまりの表現を言えるようにしていれば、出てこなかっ
たかもしれません。しかし、今回のように日本語での自然なつぶやきが出
てきてもよいと思います。
また、空想のやりとりですが、リアルな反応が返せる、というのがイン
プロを取り入れたやりとりのよさです。お決まりの言い方ではなく、自分
で考えないといけないインプロは、自由度も高いが、難易度も高いです。

正確な英語を覚えるというのも、もちろん大切なことだと思いますが、
伝えたい、伝わらない、どうしたら伝わるかな、伝わった!そんな、人と
関わることの難しさとおもしろさ、喜び、表現することの根っこを耕せる
ような外国語活動の授業ができれば…と思います。
関わる相手がどんな反応をするかわからないからこそ、関わりがいがあ
るといえます。その予測不可能な不安と楽しさを失わないコミュニケーシ
ョン場面を意識して創っていくことが必要ではないでしょうか。

また、こんな場面もありました。授業の中で、「これを言いたいけど、
なんていうんやったっけ〜〜〜」と、もがいている子がいました。言いた
いけど、言い方を忘れた、でも、思い出したい…体をよじりながら、顔を
しかめながら、考えています。しばらくして、「あ、思い出した。」と言
って、あげたのは、yellow bookでした。言いたいけど、言えないという
もどかしさを経て、伝えることができた彼の表情は、とても満足気でした。

劇作家の平田オリザ氏は、著書『「リアル」だけが生き延びる』(ウェ
イツ)の中で、子どもの表現について、次のように述べています。

─僕は表現したいという欲求がない限り、表現というのは生まれてこな
いと思うんですよね。その表現の欲求を導き出してあげるのが大人の仕事
だ。でも表現の欲求というのは、基本的には「通じない」とか「わからな
い」という体験がないと生まれてこないと思います。─
平田オリザ(2003)『「リアル」だけが生き延びる』(ウェイツ)

まだまだ模索の段階ですが、演劇(虚構)でありつつ、コミュニケーシ
ョンとしてはリアルなやりとりの中で、コミュニケーション能力の素地を
育めるような外国語活動を目指していきたいと思っています。

授業づくりネットワーク誌の最新号
http://www.gakuji.co.jp/magazine/network/index.html
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【編集後記】
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「リアルなやりとり」というところに、強い興味を惹かれます。伝統的
な「教科書」中心の学びでは、本物の体験が生まれにくいという問題があ
ります。総合的な学習の時間の登場も含めて、その辺りへの対策や模索が
続けられてきたわけですが、ドラマ・インプロの可能性・魅力を強く感じ
る実践報告でした。実は私もつい2,3日前にインプロの代表的なプログ
ラムの一つである「ホット・シーティング」の手法を活用して、魯迅の『
故郷』の最後の時間に、「閏土」への質問授業を行いました。「閏土」に
成りきって生徒が答える様子が楽しかったのですが、一方で、終了後の生
徒の振り返りをノートで確認すると、作品への理解が深まることも実感で
きました。

「学びのしかけ」プロジェクト主催の集会を、北海道夕張で開催するこ
とになりました。11月26日です。本メールマガジンの執筆者である、
山崎正明さんや、私の学級の様子もご覧いただけます。新しい街づくりを
目指す夕張から、新しい教育の在り方を考えてみませんか? 内容の詳細
は下記からです。まだまだ申し込み受付中です。
http://kokucheese.com/event/index/19564/

次号は、久しぶりに私、編集長石川晋の担当号です。
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メールマガジン「学びのしかけプロジェクト」
第169号(読者数1772) 2011年11月22日発行
編集代表:上條晴夫(haruo.kamijo@gmail.com
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編集部ではチームに分かれてMLによって原稿検討を行っています。本メ
ールマガジンの記事を読んでいただいた率直なご意見・ご感想をいただけ
ると幸いです。本メールマガジンの内容に少しずつ反映をしていきたいと
考えています。
編集長:石川晋
副編集長:長瀬拓也・加藤恭子・藤原友和・佐内信之
登録・解除 http://www.mag2.com/m/0000158144.html
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