授業づくりネットワークのメールマガジンに原稿を書きました。

新任の頃から、その頃は、月に一度発行されていた、雑誌「授業づくりネットワーク」http://jugyo.jp/ を読み、勉強させていただいていました。

 教師になって2年目に、その時一緒に学年を組んでいた糸井登先生に声をかけていただき、総合的な学習の時間での実践を執筆させていただきました。(2008年3月号)

 3年目にも、インプロと教育のことについて、執筆させていただきました。(2009年3月号)

 そして、今年度、メールマガジンに3回文章を書かせていただくことになっています。その1回目が、8月12日に発行されました。

 毎回、大変勉強になるメールマガジン「学びのしかけプロジェクト」。まだ購読されていない方は、是非どうぞ!週に3回届きます。

 季刊誌もあわせておすすめです。

授業づくりネットワークNo.2―ファシリテーションで授業を元気にする!

授業づくりネットワークNo.2―ファシリテーションで授業を元気にする!

 以下に、私の回の文章も載せておきます。しなリレのワークショップでは、子どもたちの映像を入れて紹介した「ネームダンス」について書いています。長い文章ですが、もしよろしければ是非読んで、感想などいただけると嬉しいです。


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メールマガジン「学びのしかけプロジェクト」
                126号 2011年8月12日発行
                      (毎週火金日発行)
http://www.jugyo.jp/
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★目次★
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1.教育×即興表現の可能性〜創造性を引き出す学びのしかけ
「ワークショップ」編集委員
京都府八幡市立美濃山小学校 教諭(休職中)
兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 教育コミュニケーションコース
                           藤原 由香里
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 京都の若手実践家、藤原由香里さんの登場です。「即興表現」を教室に
入れ、様々なワークショップ活動も展開されています。今年度4月から大
学院で学びをすすめていらっしゃる方です!      (石川 晋)

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1.教育×即興表現の可能性〜創造性を引き出す学びのしかけ
「ワークショップ」編集委員
京都府八幡市立美濃山小学校 教諭(休職中)
兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 教育コミュニケーションコース
                           藤原 由香里

                                                                                                                                  • -

1.はじめに〜私と即興表現の出会い

 「即興表現」と聞くと、皆さんはどんなことを思い浮かべますか?
 「即興で表現?難しそう!」「考えて動くのも大変なのに、即興で表現
するなんて…」「考えるより動くタイプだから、即興には向いてるかも。」
 色々な反応が聞こえてきそうです。

 私は、大学時代にダンス部に所属しており、そこで「即興表現」の一つ、
コンタクト・インプロビゼーションに出会いました。他者とふれあいなが
ら、即興で動きを生み出していくダンスです。

→ 【コンタクト・インプロビゼーションとは】
コンタクト・インプロビゼーション・フェスティバル実行委員会の
webpageより抜粋)http://www.geocities.jp/sholoverfg/cn9/pg313.html

他者とのコンタクト(接触や関係性)を保ちつつ、「力」「重さ」「意
志」などを、言葉を使わずに受け渡しあいながら、力学にも測り、即興で
紡ぎだす対話のようなダンス。

 なぜ、私はこの「コンタクト・インプロビゼーション」に魅かれたので
しょう。それは、自分自身の悩みと関係があります。

 中学生の頃から私が悩んでいたことは、「自分には創造力が無いのでは
ないか」ということでした。

 芸術家に憧れる気持ちがあったからでしょうか。人と違うことがしたい
という気持ちが強かったからでしょうか。
 私にとって、「創造力」とは、手に入れたいものであり、同時に手に入
れることが難しいものでもありました。

 というのも、思春期に入り、「自分は人からどう見られているか」「こ
れをすると人はどう思うか」といった、他者の反応や評価を気にして、
思いをそのまま表現するのを躊躇するようになっていたからです。

 自分自身で、自分の思考やアイデアに過剰な検閲をかけることで、自分
が本当は何を考えているのか、何がしたいのか、わからなくなる…という
状態に苦しみました。

 そんな自分の悩みに、光を与えてくれたのが、「コンタクト・インプロ
ヴィゼーション」との出会いでした。コンタクト・インプロは、他者と生
み出すダンスです。他者の働きかけに反応して、自分が動く。また、それ
に他者が反応して、どんどん動きが生まれていきます。

 それまで、私は、自分一人で一生懸命考えて、何かを生み出す力こそが
「創造力」だと思っていました。そして、自分には創造力がない、才能が
ない、と落ち込んでいました。

 しかし、驚いたことに、「他者」との関係の中で、自然に自分の中から
動きが生まれてくるのです。私一人の努力では生まれないものが、私の中
から引き出されていく。これは、大きな喜びであり、発見でありました。

 自分と人との関わりの中に、知恵や創造が生まれる。これは、自分が体
験してきた学びのイメージを転換する出来事でした。

 更に、一人でじっくり考えて出てきた表現よりも、他者との関わる即興
で生まれた表現の方がおもしろいと思えることが多々ありました。

 時を同じくして、創造力が引き出される体験を、KJ法、ブレイン・ス
トーミング、マインド・マップといった手法を通じて体験することになり
ます。「意見」を“頑張って”考えるのではなく、創造を生み出す「しか
け」によって、アイデアが生みだされてゆく・・・。

 そうか、自分に創造性がないと落ち込むことはない。ちょっとした「し
かけ」によって、能力を引き出すことができるのだ。そんなふ
うに思うようになりました。そして、教育に携わる者として、「子どもた
ちの可能性を引き出す」ということを一番の目標に置くようになりました。

 自分だけで頑張るのではなく、互いの相互作用により、力が引き
出され合う場にいることで、自分の中からも、最も創造性がわきあがって
くる・・・

 そうした場の持つ力、環境や他者との関係性によって引き出される力に
ついて、ダンスの中で考えさせられ、その経験を学びのベースとして持ち、
教員としてのスタートを切りました。

 前置が長くなりましたが、このような体験を経て、「即興表現」を取り
入れた学び方について模索するようになります。現在は、大学院で表現教
育について研究を進めているところです。

2.事例紹介〜即興表現を取り入れて作ったダンス〜

 今回は、昨年度、「表現クラブ」という校内のクラブ活動で、4年生〜
6年生の子どもたち22名と作ったネームダンスについて紹介したいと思
います。このクラブは、昨年度、市の英語フェスティバルでの発表という
大きな行事を目指して活動をしました。

 クラブ活動は、委員会活動と並んで、週に一度、あるか無いか、という
限られた時間を使っての活動です。

 4年生以上の各クラスから2〜3人がクラブに入ることになっているの
で、発表に対して意欲満々の子もいれば、「じゃんけんで負けて、仕方な
く入った」という子も数人いる状態でした。大規模校なので、お互いの名
前や顔も知らない者同士です。

 そこで、「自己紹介」「アイスブレイク」「発表に向けての創作活動」
の3つの目的を達成できるような活動「ネームダンス」を初めに行いまし
た。

 「ネームダンス」は、その名の通り、名前を使ったダンスです。ダンス
カンパニー『セレノグラフィカ』さんのワークショップや、インプロ(即
興演劇)のワークショップでの体験を参考にさせていただき、アレンジし
た活動です。「ネームダンス」は、「自己紹介」「アイスブレイク」「発
表に向けての創作活動」の3つの要素を含んでいます。

■ネームダンス■

 *身体を使って自己紹介&アイスブレイク「ムーブメント・パス」

<自己紹介>
(1)自分の呼ばれたい名前を決めて、名札に名前を書き、胸に着けます。
(2)全員で輪になります。
(3)自分の呼ばれたい名前を紹介していきます。(まずはぐるっと一周)
   例:「藤原由香里です。キューピーと呼んでください。」

<身体を使って自己紹介>
(4)全員の自己紹介が終わったら、今度は、自分の呼ばれたい名前をい
いながら、即興で、思いついたポーズをとります。止まってもいい
し、しゃがんだり、手を振ったりするような動きのあるポーズでも
いいです。
(5)周りの人も、同じように全員でマネをします。
   例:私「キューピー(と言いながら大の字でジャンプ)」→私以外
    全員「キューピー(と言いながら私の真似をして大の字でジャン
    プ)」
(6)このように、一人ずつの動きを全員で真似をしていきます。

<ステップアップ!〜ムーブメント・パス>
(7)上記の要領で一周したら、今度は、誰のポーズでもよいので、自分
以外の誰かの名前を呼びながらポーズをとります(動きをパスする。)
   例:私「はなちゃん(といって、はなちゃんのポーズをとる。)」
    → 私以外全員「はなちゃん(といって、はなちゃんのポーズを
    とる。)」

(8)呼ばれた人(はなちゃん)は、また誰かの名前をいいながら、その
人のポーズをとります。
   例:はなちゃん「かいくん(といって、かいくんのポーズをとる。)」
  → はなちゃん以外全員「かいくん(といって、かいくんのポー
ズをとる。)」

 動き(ムーブメント)のパスを回していき、全員のポーズを誰かがする
まで続けます。

<更にステップアップ!〜逆回し ムーブメント・パス>
(9)先程の順番と逆の順番で動きを回していきます。
<先程> キューピー → はなちゃん → かいくん
<逆回し> かいくん → はなちゃん → キューピー
  先程、自分の名前を呼んだ人のポーズを回していき、最後に最初の
人までつながると大成功です。
「自分の名前を呼んでくれたの、誰だっけ?どんなポーズだったっけ?」
思い出しながら、思い出せない時は、周りに助けてもらいながら、
動きのパスを回していきます。
  できたら、大きな拍手!今度は、もっとスムーズに回せるかにチャ
レンジ!
  不思議とこの活動をすると、動きとセットで名前が覚えられます。

 こうして子どもたちの名前から、子どもたち自身が即興で生み出した動
きをつむいで、ひとつながりのダンスにしたものを、「ネームダンス」と
呼んでいます。

 今回の場合は、動きを映像として記録しておいて、次の項目をチェック
しながら、教師側で、ひとつながりのダンスにしていきました。

・どの動きが最後の「きめ」にふさわしいか
・どの動きとどの動きがつながりやすいか
・隊形移動に使える動きはないか
・(音楽が決まっているなら)曲の拍数と合わせるには動きを何拍とれば
 いいか

 出来上がったダンスには、一人ひとりが即興で作った動きが含まれてい
ます。子どもたちは、踊るときは、全員の名前を唱えながら踊っていまし
た。

 私が振り付けを全て決めて、「型」として教えていれば、こんなユニー
クな踊りにはならなかっただろうな…というような楽しいダンスが出来上
がります。一人ひとりの体の癖や、性格が表れた動きは、見ていて、つい
つい笑顔がこぼれる、愛らしいものになりました。

3.ネームダンスのいいところ

 ネームダンスでは、自分の動きの振付家は自分です。自分の細かい癖や、
腕の角度、勢いや表情も皆が真似ていきます。一人ひとりが、自分の動き
の「先生」であるわけです。「腕の角度は?」「足の向きは?」お手本は、
先生ではなく、子どもたち一人ひとりであるということが、ダンスへの主
体的な参加につながります。

 たった2秒ほどの短いダンス。「名前は世界で一番短い歌だ」、と聞い
たことがありますが、それならば、ネームダンスは、世界で一番短いダン
スでしょう。一人ひとりの小さな歌とダンスをつむぎ、みんなで踊れば、
お互いに受け入れ合う雰囲気が自然に生まれていきました。

 ネームダンスは、振り付けに全員が関わります。パズルのピースを持ち
寄るように。全員がかけがえのない...そんなメッセージを伝えること
ができるのもネームダンスのいいところです。

 動きをマネしてもらえるというのは、恥ずかしくもあり、とっても嬉し
いことでもあるようです。おもしろい動きにくすくす笑いながら、動きに
「その人」を感じ、互いの名前を呼び合い、身体もほぐれてゆきます。

 ダンスを初めとする表現活動では、「やらされている」という感覚を子
どもたちが持ってしまうと、表現することを楽しめません。表現すること
が嫌いになる場合もあります。

 ところが、自分達で創ったダンスは、「やらされている」という感覚に
なりにくいようです。嬉々として踊る子どもたちを見て、そんなふうに感
じました。

 ネームダンスの他にも、即興表現のゲームで遊び、遊びの中から生まれ
た表現を採集・編集し、作品にしていくという方法で、創作をしていきま
した。

4.活動を振り返って

 作品が出来上がり、校内発表をした時に、子どもたちの口から、「全部
自分達で創りました!」という誇らしげな言葉が出てきて、とても感動し
ました。最初の自己紹介で、「じゃんけんで負けて、このクラブに入りま
した。」と言っていた男の子が、「表現クラブ楽しい!入ってよかった。」
と言っていたことも、印象に残っています。

 このような言葉を聞くことができたのは、子どもたちの自発的な表現を
ベースにした作品であったこと、そして、その作品創作の過程で、他者と
の交流や触れ合いがあり、一人ひとりが集団への所属感が持てたこと、等
が背景にあるように思えました。

 学校現場では、時間が無かったり、作品の見栄えを気にしたりして、「
教師が用意したものをやらせる」というようになりがちです。

 しかし、少しの「学びのしかけ」で、子どもたちが主体的に創造力を発
揮できるようにすると、表現する喜びの度合いが変わってくるのではない
か、と感じています。

 まず、即興で、動いてみる。考えるより、身体を動かしてみる。一人よ
がりにならずに、相手の動きや台詞を聞き、受け入れる姿勢を持つ。完璧
な答えを最初から出そうとせずに、どんどんやってみる。やってみてから、
いいと思うものを選んでいく・・・

 こうした創作場面で有効な学び方を、こどもたちの創造力や意欲を引き
出す「学びのしかけ」として授業に活かしていけたらいいなぁ・・・

 即興表現(即興劇や即興ダンス)を取り入れた学び方がもたらす可能性
に希望を感じつつ、研究を進めています。

授業づくりネットワーク誌の最新号
http://www.gakuji.co.jp/magazine/network/index.html

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【編集後記】

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 藤原さんの原稿いかがでしたか。徹底してインプロにこだわり続けてき
た藤原さんの足跡もよくわかり、幸せな気持ちになりました。インプロは
おもしろそう、でも、どこから手をつけたらいいのか…という人は多いよ
うに思います。
「私が振り付けを全て決めて、『型』として教えていれば、こんなユニー
クな踊りにはならなかっただろうな…というような楽しいダンスが出来上
がります」…心をくすぐられます。
 私も実はインプロにようやく取り組みはじめました。その可能性とおも
しろさにぐいぐい惹かれているところです!
 藤原さんが企画したり関わったりするイベント情報は、こちらのblog
で確認できますよ!
→ 「キューピーのひらめきスケッチ」http://d.hatena.ne.jp/Yuka-QP/

 次回日曜日は、ライフヒストリーチームから、今宮信吾さんと松崎正治
さんの研究ペアの登場です! 6月17日(103号)の続きになります!
→ http://archive.mag2.com/0000158144/20110617230000000.html
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メールマガジン「学びのしかけプロジェクト」
第126号(読者数1741) 2011年8月12日発行
編集代表:上條晴夫(haruo.kamijo@gmail.com
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